朴槿恵の退場

韓国の最高権力者は、歴代、退任後に訴追されたり死刑判決を受けたり「自殺」に追い込まれたりしてきたが、今回は人気満了さえ許されなかった。朴槿恵という人は、これで2度、青瓦台を失意のうちに去ることになった。1回目は38年前、父親が殺された時である。74年に暗殺された母親に代わる形で、朴正煕のファーストレディを務めていたが、父親を暗殺され、彼女もまた、大統領府にいる理由を失くしたのだった。
今回の罷免を齎したのは彼女のいかにもまずい政治手法や、不埒な機密漏洩だ(今はまだ「容疑」ではあるが)が、その遠因には、両親を政治的闘争で奪われた者の、余人には想像を絶する孤独感も大きな要因としてあったのだろうと思う。それが、心を許せる友人を、閣僚や公のブレーン以上の厚遇で扱う朴槿恵流を生んだのなら、皮肉でありかつ哀れである。
さて、これで、遅くとも5月初旬までには大統領選挙が行なわれる。候補の中では、5年前に彼女に惜敗した문재인文在寅=더불어민주당:共に民主党=が、世論調査で2位以下に大差をつけている。韓国国民も、李明博から2期続いた保守系政権の失政と経済格差の広がりに嫌気が差しているようで、この情勢だと戦後3度目の政権交代成立の公算が大きい。政権交代など、当分不可能に限りなく近い日本に比べ、うらやましいことだ。
しかし、現在の情勢で政権を取っても、共に民主党は「進歩派」の特色を出しにくいだろう。金大中ばりの、北に対する宥和政策は、今とてもじゃないが打ち出せるものではない。独島(日本名 竹島)問題などで日本に強く出て気を引く手にしても、本来親日路線であった筈の保守系大統領が進歩派のお株を奪うかのようにやってしまったあとでは、国民からは見透かされ、経済停滞を打開したい財界からは支持を失うだろう。
おまけに、トランプ政権のアメリカとどう同盟関係を舵取りしていくべきか、という難題が待ち受ける5年間である。朴槿恵が属する自由韓国党(先月までの「セヌリ党」)は、むしろ、政敵に権力を押し付けたいくらいではないか、と言えば怒られるかな?
個人的には、文在寅以上に人気絶大だった潘基文の手腕を拝見したかったところだが、出馬しないとのことだから仕方がない。
まぁ、前代未聞の事態が何年かごとに起こる半島が、この春 慌ただしくなってくる。韓国はやっぱり、Kポップより映画より、政治が面白いな。