外国語学習法#1

“外国語が分かり、喋れる”ことに一度も憧れたことがない人は稀だろうと思う。そこでしばしば、「外国語をマスターするのに最も効果的なのはどんな学習法か?」というテーマが話題に昇る。
その「答」として、「その国の彼女/彼氏を作ることだよ」としたり顔で言う人がいるが、これは、はなはだ眉唾物だ。確かに、知り合った当初は相手をモノにするために必死で学ぶので、ある程度までは急速に上達するが、頭打ちも早いからである。
「見詰めあって目と目で会話できる」段階までいってしまうと、もう懸命になる必要がない。今日何食べよう、とか今度の週末何をしよう、程度の、入門書で充分対応できる対話の繰り返しで、ほとんどの用が足りてしまう。上級の語学力を身につけようというインセンティブとしては効果が薄い。
また、その恋人と別れてしまった場合の「反動」も大きいだろう。「外国語をマスターするのに最も効果的な学習法」への「答」ではないことは明らかである。

で、筆者の考える答は、
「ある国にスパイとして潜入し、その国の人に成りすまして機密を探る任務を担うべく、その訓練の一環として潜入先の言語を習う」
である。産業スパイ程度なら、外国人研修生のふりをして潜入できる場合もあるだろうが、もちろんここで言っているのはそんな生易しいケースではない。
その国の人間に成りすますからには、聞く・話す・読む・書くの全ての技能に完璧でなければならない。文法・語彙・発音・位相・運用など、いずれかのうっかりミスやささいな訛りが出て、スパイであることがばれたら、よくてスパイ失格、悪ければ死を意味するだろう。文字通り「死にもの狂い」の学習というわけだ。究極のスパルタレッスンである。
一定時間で、最も効果を挙げる、密度の高い方法としては、これ以上のものを筆者は思いつかない。
これを逆から言えば、スパイになる人以外は、外国語ごとき、そう必死で学ばなくてよいということでもある。