高齢者のお仕事

釜山の地下鉄1号線の「中央洞」駅の改札付近に看板が立っていた。こう書いてある。
노인일자리사업
「老人仕事場事業」

意訳すれば、「高齢者人材活用事業」といったところか。
そしてこの看板のそばには、「日本語通訳」と背中に書かれたベストを着た男性(70歳前後か)がいた。お手伝いできることはないですか、と話しかける相手を探すような態(てい)で、改札の周囲を行ったり来たりしておられた。

地下鉄「中央洞」駅は、釜山と大阪や下関とを結ぶ国際フェリーのターミナルに最寄りの駅でもあり、繁華街「南浦洞」にも近い。「西面」と並んで、日本人観光客が多く立ち寄るところだ。

朝鮮半島は解放(光復)後64年経つわけだから、日帝時代に日本語を覚えさせられた世代は、若くても70歳前後になっている。退職後のいわゆる第二の人生の過ごし方として、非常勤や嘱託の仕事(交通費程度のわずかな報酬の出るボランティアを含め)を選ぶ人は多くの国におられることだろうが、「日本語通訳」が成り立つのは、韓国くらいではないだろうか。台湾辺りにもありそうだが、あっちでは若者がやっていそうだ。

일자리사업と謳(うた)う以上、職業なのだろう。韓国には毎年通っているが、少なくとも釜山では今年はじめて見た。
「無理に学ばせられた日本語なんか、今さら、しゃべりたくもない」と考える人も多いのではないかと推察するし、そうであっても不思議はないが、逆に、退職後、隠居するのでなく、積極的に日本語を使って日本人観光客に役立ってあげよう、という人も少なからずおられるわけだ。その意思はどこから出てくるのだろうか。そんな疑問をもって、そのお年寄りの背中を見ていた。