太原の宿探しで

山西省省都・太原でのこと。
太原には11日、すなわち、後で知ったが、中国政府の圧力が高まりつつあった頃に到着した。
駅前にある「鉄路賓館」に泊まろうとし、値段の交渉も済み、フロントでパスポートを出したところ「当ホテルでは外国人を泊めることはできないんです。すみません(対不起)」とのこと。
鉄路賓館は、多くの市に同名ホテルがあり、多分国鉄が経営していると思うが、今まで何度も泊まってきた。また、フロントの後ろの壁には、北京・東京・モスクワ・ロンドンの時刻を示す時計が並んでいる。中国人しか泊まれないホテルなら、あんな時差時計はむだだろうよ。
まあ、外国人を宿泊させる許可のないホテルは、中国にはいくらでもあるので、そういぶかしがらずに近くの別のホテルへ行った。そこは軍の関係のホテルらしき名称だったが、全く同様の対応。「外賓はお泊めできず、不好意思」という。

しかたないので、道を渡ったところにある、大きいビジネスホテル(快捷賓館)と小さいビジネスホテルをあたってみて、ともに外国人OK。小さいほうが静かで、値段も安かったので、投宿した。


ところが、チェックイン後、あたりを散歩していると、さっきの「鉄路賓館」のパンフを持った客引きが、「ここへ泊まりませんか」と声を掛けてくる。「私は日本人です。お宅は外国人を泊められないんでしょ」と言うと、客引きは「そんなことはない。どうぞ」と言う。
そのときは、いい加減な国だと、ちょっとむっとして「こっちが泊まりたいと言う時は断ったくせに。君とこでは絶対泊まらん」と客引きにどなってしまった。

事実起こった以上の状況を総合すると、どうやら日本人だからというので、意地悪された可能性があるなと思い至ったのは帰国後である。
推測だが、断ったのが2軒とも国立っぽいホテルだったことからして、中央から「当面、日本人が来たら宿泊拒否せよ」とお達しがあったのではないか。
拒否をさせられる現場のほうは、なにをバカな大人気ない措置を、と内心思いながらも、上に逆らうわけにはいかず、何の恨みもないただの旅行者に対しては「ルールでして」と方便の嘘を言ったのではなかろうか。現場自体がいじわるする気なら、「ふん、ほかを探しな」といった態度をとるか、少なくとも「日本人は(外国人は、でなく)泊めません」というはずだ。
あくまで解釈であって、何かのまた別の事情があったのかもしれない。



なお、泊まったビジネスホテルは、向こうから15%値引きしてくれたし、猫を抱いたマダムが終始ニコニコして接客してくれて、大変気持ちよく3泊してきた。