2010年の終わりの些細な光景

今年最後の買物をする客で大いに賑わっていたショッピング・センターも、夕食時になり、さすがに客足も減った時分だった。3、4歳位の男児と母親が、店内のタバコ自販機の前にいた。
出しぬけに、母親が「なんで押すのぉ!!!」と頓狂な声を上げた。周りの人が何ごとかと振り返るくらいの声量で。
その男児が自販機のボタンを勝手に押してしまったことは、すぐ了解できた。その子にしてみたら、母親がお金を投入するや、何十個も並ぶボタンに一斉に赤いライトをついたのを見て、自分の手が届く下のほうのボタンを、思わず押したのだろう。この年頃の幼児の反応としては、予測しておいてしかるべき行動だ。しかし自分が吸いたい銘柄と違うタバコを出された母親は、自分の予測力の無さは省みず「もおぉぉぉぉ!」とぼやき続けている。ところがまたその子が泰然自若とした幼児で、一向に悪そうにするでもなく、「だって。だってな…。」と、ボタンを押す前から母親と会話していたのとちっとも変わらぬ声の調子で、自らの正当化を試みている。
私は、肝の据わった子やなーとちょっと感心しつつ、心の中で「かまへん、かまへん。あんたは、そない怒られるほどの悪さはしてへん」と声なき声援を送っていた。
母親は、サービスカウンターの方へ歩き出した。希望のタバコと交換してもらうつもりだろうが、子供の手はしっかり握っていた。口では怒っているが、それでも怒りの原因を作った子を邪慳にするようなそぶりはなく、まして子供をほったらかして一人スタスタ行ってしまうような足取りでは全くなかった。


私は、
“もし、母親が買おうとしていたのが缶飲料とかだったら、ああまで怒ることもなく、まぁこのドリンクでもいいか、とあっさり諦めて、出てきたのを飲んだかもしれない。タバコを吸わない人間にはわからないが、よほど、タバコの銘柄って代わりが利かないものらしい。嗜好品だから? しかし、嗜好品でもお菓子の自販機で同じことが起こったとして、あんなに譴責するだろうか。ま、人にもよるけどな…”などと愛煙家のこだわりについて考えた。


言葉はきついが根は優しいお母さんと、口達者で権勢をもった相手にも負けてない子供。大阪の下町だと、普通に見られるコンビのような気がする。
中部地方のこの街には珍しいspan style="font-weight:bold;">大阪的な母子がいたもんだなと、2人を見送りながら、なぜか妙にほのぼのした大みそかであった。