4.幕の内駅弁の浸透

かつては、韓国人が遠足や旅行中の車内で弁当を出して食べようとしているのを見れば、「中身はキムパプ(海苔巻き)だな」と予測してまず外れることはなかった。駅やバスターミナルなどの売店でも、ほとんどキムパプ以外見かけなかったし、うちで折り詰めを作ってきて食べている人も、国民の間で申し合わせでもあるかのごとく、あの酢の効いていない海苔巻き一色だった。

ところが、先月、東大邱駅コンコースの売店で、幕の内弁当が売られているのを見た。「幕の内弁当」とは、
ゴマを振ったご飯、
そして何種類ものおかずが彩りよく配置してあって、
その仕切りが壁状に盛り上がっているもの
がイメージされると思うが、その通りのものであったようだ。
また、トンカツなりエビフライなり、俺がこの弁当のメインだぞ、と主たる存在であることを主張するアイテムが入っていると、他の副菜の種類が多かろうと、「幕の内」とは名づけられない気がする。
できれば木製の器に入っていたほうがさらに幕の内気分が出るが、そこはこだわらないものとしよう。


韓国でも、コンビニでは、もうかなり前からキムパプ以外の「弁当」が並んでいた。韓国でメジャーなコンビニは、7イレブン、ファミリーマートなど、日系のコンビニであるから、そういった店舗で日本のノウハウで作られたものが売られ、徐々に韓国人も幕の内に近いものを食べるようになったのではないかと推測する。そして、コンビニよりさらに購買層の広い駅構内でも売られるようになるまで、市民権を得たわけだ。
ただしすぐ隣の大邱駅(東大邱駅よりだいぶ小さい。駅名の命名法からすると逆のようだが)では、売ってなかったように思う。東大邱駅のほうがKTX(いわゆる韓国版新幹線)の発着駅でもあり、構内も広い。同国第3の大都市(人口240万以上)の、そのまた最も発着の多い駅で見たからと言って、これで、韓国でも幕の内がポピュラーになった、と言うのは早計だろう。韓国人は、日本人より、メインディッシュがはっきりしたメニューを好むように思える。上記コンビニ弁当も、ほとんどはそういった、メインおかずの存在する、非幕の内だ。
したがって、幕の内の、会席的な地味さ、一方、家庭で作る弁当ではおいそれとまねのできない品数の多さを、日本人のほうがより高く評価するとみてよさそうだが、ここへきて、韓国人も幕の内的な「渋味(?)」を評価し始めたということだろうか。


ちなみに、朝鮮半島と同様かつて日本の植民地であった台湾では、もっと以前からあったように記憶している。日本的な幕の内弁当の浸透も韓国より早かったようだ。


日本に駅弁は全国で2〜3000種類もあるとのことだが、
http://eki-ben.web.infoseek.co.jp/ebqanda.htm
現在も、幕の内は、特殊弁当に決して駆逐されず、根強い人気を占める。
韓国は、国土が小さい上に、文化的地方差が乏しいので、日本よりははるかに駅弁の種類は少ないだろう。したがって、デパ地下で「駅弁フェア」などというのも考えにくい。いかめしだの、鱒寿司だの、駅弁ファンでなくても知っているような人気ブランド駅弁が日本には存在し、本家はその地へ行かなければ買えず、駅弁フェアを催せば必ず呼び物になるというのも、彼らには意外ではないだろうか。

韓国弁当業界は、キムパプ一辺倒→コンビニ弁当→幕の内と来て、次は、地方色豊かな駅弁の開発など、多様化を目指すだろうか。それとも、相変わらず、何かが流行ると全国的に追従が行われローカル色の乏しい韓国の体質は、変わらないだろうか。もう少し見守ってみたい。