最悪のテキスト

私が‘最悪のテキスト’と判定した韓国語テキストとは、
 姜奉植(カンボンシク)著
  『日本人のためのアンニョンハセヨ アンニョンハシムニカ 韓国語入門』2004改訂版
    ランゲージプラス発行
    日本での発売元は、国書刊行会
である。

私もあらゆる韓国語の教材を見たとは到底言えないが、教師の端くれとして、少なくとも、現在書店の店頭に並ぶ程度の教材には、注意を払ってきているつもりだ。そうお断りした上で、“私の目に今まで触れた限り”と範囲を限り、この本をもって、間違い・不適切な記述の多さでトップの韓国語教材であるとみなす。

それでは、「最悪」であるとする理由を、ダイアリー1回分で書き切れる程度の生易しい欠陥ではないので、何回かに分けて指摘していこう。

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◎45ページのパッチムの発音を示した一覧表
ボンシック君のハングル体系には、ㄸ,ㅃ,ㅉというパッチムが存在するらしい。
もちろん、この3つは、初声にしか現れない。終声(パッチム)として出現することは皆無なので、パッチム・リストに入れておく必要は全くない。
つまり「存在しないもの」をどう発音するか、を示してくれているという、世にも稀なテキストなのだ。
実は厳密に言うと、この「間違い」は論理学の世界では、有名な「現フランス国王は禿である」という命題と同様、<正しいか間違っているか>を論じることができない、とされる。「存在しないもの」を主語とした命題については真偽判定の枠外だ、と考えるのがロジックの世界の掟らしい。とはいえ、哲学のセンセーがどう言おうが、常識的には「間違い」に入れられるだろう。
断っておくが、彼は、「使われることがないパッチムも書いておかねば、入門レベルの学習者には不親切になるから」と考えて、この表に「存在しないもの」を書き加えたのでは決してない。それは、前のページ(p.44)に「パッチムには基本的に全ての子音がくることができます」と堂々と明記していることで分かる。心から、ㄸ,ㅃ,ㅉというパッチムが存在すると信じているわけだ。
なかなか念の入った恥をさらしかたをする人である。


◎47ページの「2文字のパッチムとその発音」
47 パッチムㄹㄱの発音はㄱ[k]であるとし、ㄹㅂはㄹ[l]であると示した上で、表外に注釈を付け、例外としてㄹㅂについてのみ、
「「ㄼ」パッチムのうち、例外的に「ㅂ」を取って発音される語は「밟다(踏む)」1語のみ」
と書いている。しかし、それを書くのなら、읽다(読む)などのㄺは、子音の前で左のㄹを発音する場合も多いのだから、これについても注釈をほどこすべきだが、なぜかㄹㅂの例外は書いておきながら、ㄹㄱは無視している。
ついでに、同じ箇所で、最終行から2行目に「取って」とあるのは、「採って」と言いたかったのだろう。
「ㅂ」を取って発音したら、残ったㄹを読むしかなくなってしまうが、ボンシック君に、そこまで期待するほうがヤボか…