ソウルに慰安婦をシンボル化した像

ツアー客も多く訪れる景福宮や光化門にも近い日本大使館前に、植民地時代の慰安婦をシンボル化した少女の像が建てられた。建てたのは、「韓国挺身隊問題対策協議会」という、ソウルに本部のある市民団体。日本政府としては、かねてからの「建てないでくれ」という要請が無視された形なので、黙ってはいられないのではあろう。ただ、大使館幹部らの言う「外交公館の尊厳にかかわる」というコメントは滑稽に思える。大使館の中や敷地なら治外法権だが、前の道は韓国のもの。本国の人が何を建てようが、気に入らなければ無視すればいいこと。それも、韓国政府が国の金で建てたのではないのだ。
また、仮に、これが「少女が服を引き裂かれて日本人風の軍人に犯されている像」とかだったら、これは建てた者の常識を疑うが、「慰安婦の像である」と言われなければ、そうと判らないような、チマチョゴリ姿の幼い女の子の坐像にすぎない。
この市民団体は、毎週、日本大使館の前で「水曜集会」という、被害者のおばあさんたちを支援する集会を、大使館が休館する祝日を除いて毎週水曜日に行っており、その1000回めを記念して建てたとのこと。したがって、被害者が高齢化し、集会に参加できる健康なおばあさんも減る中で、自分たちの政府が、青春を奪われた女性たちの気が済むような対策を進めることをさぼっている、ということへの不満のシンボルという意味も大きいようだ。
少女の眼差しは日本の公館を見据えているが、その背中は韓国政府に対する失望を語っているように私には見える。

この「水曜集会」を私は2回見学したことがあるが、大使館前で要求を読み上げ、日本の街宣車の10分の1にもならない程度のボリュームでシュプレヒコールをあげるという、公に主張をする方法として、ごく穏健で民主的なもの。だいいち、大使館の周りゆえ機動隊だらけであり、過激な行動はとりようがない。
この件は、日本政府としても、「多くの女性の名誉と尊厳を傷つけた行為」であり、「日本軍が関与した」と正式に認めていることで、ただその償い方法に関する食い違いが焦点なわけだから、竹島問題のような、一致点が見出しがたい懸案と同等に並べて論じるのも考え物だと思う。

ただ、今回の少女像は少女像として、私個人は、この市民団体の方針には、絶対に賛成できないところがある。
それは、日本政府が、「慰安婦個人への賠償はしない」ことに、両政府が合意している以上、公金で賠償することは矛盾を生じるという理由で、「アジア女性基金」をたちあげて、民間からの寄付を中心に元慰安婦への償いをしようとした時に、この協議会は徹底反対し、反対するのはまだしも、その基金からの償い金を受け取った一部の元慰安婦をなじって、裏切り者であるかのごとき非難を浴びせたことである。
それこそ、明日を知れぬ高齢の被害者たちが、完全に満足はできないまでも、せめて生きている間に日本人の市民の好意としてわずかな金銭を受け取ったのを非難して、何が支援団体か!?
団体としての見解がいかなるものであろうとその団体の自由だが、「償い金」を受け取るおばあさんも、受け取らずにあくまで政府の賠償を求めるおばあさんも、両方おられてよいし、両方の選択をともに尊重するのが支援団体のすべきことだった。
と、まあ、この団体への批判はあるものの、今回の像設置には抗議の必要を私は認めない。