念願のトルコ>初日のイスタンブール

空港から公共交通でスルタンアフメット地区へついたのは、着陸から約2時間後の15時14分だった。
宿捜しには時間を食った。目あての手頃なホテルは満室。「オープンしたて」とガイドブックに紹介されている所は、なぜか営っていないし、空き部屋のある宿は見かけの割に高い。
その間も客引きがうるさく まつわりつく。結局、9軒目「アクエリアム・ホテル」が朝食付き35ユーロで、接客態度も良かった。熱帯魚を水槽で泳がせているのが、この屋号の由来とみえる。チャチな水槽1つで「水族館ホテル」も ない もんだが、発想が可愛い商売人にはそう悪い奴は いないかもな、と、いい風に解しておく。16時14分投宿。
9軒目にたどり着くまで、地図を無視し勘に任せて歩いたせいで、「アクエリアム・ホテル」が地図上のどこなのか、定かではない。見覚えのある場所まで戻ってみようと、再び外へ。日本の自宅を出てから32時間、ずっと乗り物だったから休みたいが、そうしていると日が暮れる。
坂を下った所に、空港から乗って来た路面電車が見えたのでホッとし、その道へ下って行こうとしたら、30代の男に呼び止められた。これが、さっそくの洗礼、と言うべきか、絨毯屋だった。
もう自分のいる所も特定できるし、今日は観光もないからいいか、と誘われるままに店へついて行くと、中年の女性がアップルティーを持って来る。その時点では、毒を盛られたら終わり、とも思いつかず、美味しく飲んでしまった。トルコで最初に口にしたのがこの紅茶ということになる。おいしい。睡眠薬強盗ではなかったようで、意識は無事。ただ、巻いてある絨毯を次々と広げて、「これはナントカ地方産の 本場の絨毯」だの「これは色付けに天然色素だけを使っているから政府のお墨付き」だのといった売り文句を並べる。
もういいよ、と去ろうとすると「もうちょっと。目の保養」と言って、次の絨毯を広げる。トルコ人に「目の保養」などと言われると、笑えてしまって、去りそびれる。
何枚目かの絨毯が広げられたところで、「また帰りに、きっと寄るから」とウソをついて強引に店を出た。ほとんど紅茶の飲み逃げだ。
再び、坂を下りて行くと、今度はレストランの呼び込みの男が、「君、さっき、日本語を喋る奴に どこやら連れて行かれただろう? 何が起こった?」ときく。
絨毯屋だった、と応えると、
「そうか。ふむ。ところで、うちの店で食事していかんか? メニューはな、・・・・」と、出来るものを説明しだす。
買う気の全く無い絨毯での目の保養から解放された途端に、食べるつもりのない料理の講釈では 胃の保養にもならないので、適当にごまかして去る。
この後も、夕方わずか2、3時間の散歩の間に、何人のトルコ人から話しかけられたかわからない。そして、これから2週間半のトルコ滞在中、どれだけの回数、話しかけられるのだろう、また、どれだけの回数、「また寄るから」とウソを言うことになるのだろう、と考えていた。