念願のトルコ>カッパドキアのゴルゴ犬

トルコでは、街に首輪のない犬をよく見かける。

カッパドキア地区の名所の1つ、デヴレントにも犬がいた。首輪なし。うす茶色。中型と大型の間くらいの大きさで、観光バスで次々とやってくるツーリストの間を縫ってうろうろしていた。
面白い形の岩々をあらかたカメラに収め、そろそろ出発しようと思ったら、雨が降り出した。レンタサイクルでまわっている私は、しばらく雨宿りする。傘も持ってるが、無理して急ぐ必要はない。
売店の軒を借りながら間食にピーナッツを食べた。例の犬がゆっくり近づいて来て、私の周囲をゆるゆる、ゆらゆら行ったり来たりする。ピーナッツを犬の前へ数粒置いてみた。
犬は匂いを嗅ぐと、1粒も食べずに立ち去った。目で追うと、近くのゴミ捨て場で残飯をあさりだした。

「お前のくれた物を食べるくらいなら残飯の方がましだ」という意思表示なのか、それともピーナッツの匂いで食欲を刺激され、トルコで暮らす犬としては雑食性でなく肉しか口に合わないから残飯に向かったのか、その辺はわからない。
私は、残飯漁りに余念のない犬の背中を見ながら、日本を出る直前に読んだ『ビッグコミック』最新号の「ゴルゴ13」の1シーンを思い出していた。依頼遂行に犬の相棒が必要になったデューク・トウゴウは、人里離れた地で1匹の犬と過ごし、薪の火のかたわらで簡単な食事をする。犬と視線が合うと、彼は肉の切れ端のようなものを投げ与える。すると、その犬は、このトルコの犬と同じく、その餌を食べることを拒否するのだ。そこでトウゴウさんが、

「お前にも自分のルールがあるらしいな」

と犬に向かって言うシーンである。
で、私もカッパドキアの犬氏の背中に、超A級スナイパーから教わったそのセリフをつぶやいてみた。
もし、渡航前の忙しさに紛れて、『ビッグコミック』を立ち読みする習慣をサボっていたら、きっと「失礼な犬め」と腹を立てていたに違いない。

犬好き(多分)のトウゴウさんの動物への寛容さ、ないしは、一匹狼の自分と同志のように見える犬への視点を描いたシーンが記憶に新しかったおかげで、イラッとすることを1つ免かれたのだった。

かく言う私も人の作ったルールでは動きたくない口である。ただ、自分で決めたルールさえ、しばしば守れなくなってしまう情けない奴でもある。少なくとも、このゴミ箱を漁る犬をわがままだと責める資格はない。



雨が小降りになった。私は、マイペース犬と別れ、次の見所へ向かう。