川島なお美(54)

私の手元に2冊の写真集がある。
1冊は『WOMAN』。川島なお美 三十路 間もない頃の白い裸身が写っている。
もう1冊は、同じ人物の、まだ丸顔で少女の面影が残るアイドル時代のミニ写真集。
そのどちらを買った時も、こう早く、その被写体の訃報を聞く日が来るとは想像できなかったが・・・。

大学生時代から人気のあった彼女が、のち「お笑い漫画道場」で、可愛いだけではない、笑いのツボを心得た優れたタレント性で人気を広げたことはよく言及される。
古舘伊知郎のTV番組にゲスト出演した時、古舘さんが彼女のことを、そのマルチタレントぶりと名古屋出身であることと引っ掛け、“味噌煮込みビーナス”と表現したら、彼女は、謙遜も照れもせずに、「おいしそう〜」と返した。そんな、ウィットの効いたキャラクターがずっと好きだった。
若い頃を中心に何曲か歌も出した。20台に歌った「愛しのマンドリーノ」「GEMINI」などはなかなか名曲だ。遺作がミュージカルだったくらいだから、音楽にかける思いも大きかったのだろうと思う。
私と同じ年に生まれた彼女は、私が30の時に30歳、50になったのも一緒、この先も同じ年に還暦を迎え・・・と、同時に歳を重ねていく姿を見せてくれると思い込んでいただけに、ちょっと年上のキャンディーズのスーちゃんの時にもましてショックだ。
ただ、腫瘍細胞に栄養を吸い取られながら、抗ガン剤も拒否して、つい最近まで舞台に立った彼女の“引退なき最期”。自分の命の末期まで「自己決定権」を行使しようというあの態度・あの覚悟によって、日本人の2分の1がガンで死ぬ近未来に先駆け、末期ガン患者の選択肢サンプルを示してくれていったのだと、残念がる頭を切り替えようと思い始めたところである。
10代の頃から一貫して、チャレンジできる限りのことにチャレンジしてきた川島なお美らしい、不治の病への挑み方だったかもしれない。痩せこけて痛ましいと思われることを厭わず舞台に立つには、冒頭に書いた写真集や『失楽園』で全裸を見せた時どころではない勇気を要しただろう。己の姿を世の中にさらけ出して、女優が1人、この世で出来る全てを終えた。
カミングアウトした有名人ガン患者の嚆矢として逸見政孝が今も挙げられるのと同様、将来、ギリギリまで現役であり続けたガン患者を数える時、彼女の名はその典型として永くその筆頭格を占めるに違いない。
冥福は、私などが祈る必要もなく、決まっていよう。