6.無難な食文化

商売柄、「これは!という美味しい韓国料理があったら教えて」と、訊かれることがあるが、そのたびに困ってしまう。
私にとって韓国料理で“これは”というものは無い。一つも無いと言っていい。
たいていの国の料理には、“メニューの選択に迷ったら、とりあえずあれを注文しておこう”、という料理や、“久しぶりにその国を訪れたら、とりあえず滞在初日のメシはこれだな”、というのがある。“毎日これが出てきてもいいな”というほどお気に入りもある。
例えば、インドネシアならガドガド。ベトナムならカインチュア(酸味スープ)という風に。
そしてそういう料理は、国内のエスニック・レストランでも定番メニューになっていることが多く、やはり日本人の舌に合うんだなと納得する。
しかるに、韓国に限って、それがない。食べるのが楽しみ、などという食べ物は全く思い当たらない。
しかし逆に、まずくてどうしようもない、これだけは食うな、という料理も、韓国には無い。
何を注文しても、そこそこ食える。同一メニューをいくつかの食堂で食べ比べてみた場合の当たり外れも、他の国に比べると小さい。
一言で言うと、安心して食べられる代わりに、食べる楽しみも少ない。無難だが変化と工夫のない食事文化だと思う。

腹が減ったから食うか…。あるいは、たまたま通りかかった店にこのメニューが有ったから食った…。その程度で、人生の食事の機会の1回が費やされてしまう。


それで、冒頭の質問を受けたときには、半分冗談で、「韓国料理で美味いものは양념(合わせ調味料)」と応えている。実際、韓国料理の「無難さ」のみなもとは、양념のおかげ(せい)だと思っている。